はじめに

「セルフサービスBI」が大きく取り上げられて取り組みがなされる中、ビジネスに悪影響を及ぼすようなデータの一貫性欠如やプロセス上の不備などを防ぐための「ガバナンス(統制)」の確保の難しさが指摘されています。前回の「セルフサービスBI」成功の肝となる「データ準備」と「複数データソースの統合」でお話させて頂いた「データ準備」や「複数データソースの統合」もデータに対するガバナンスの構成要素として位置づけられますが、本エントリでは引き続きガバナンスのトピックに焦点を置いてお話しさせて頂きたいと思います。

データガバナンスが担保されていないとセルフサービスBIは崩壊する

データガバナンスの重要性についてご説明するに当たって、まずQlik社の社内での取り組みのご紹介からお話をはじめさせて頂きたいと思います。Qlik社はセルフサービスBIを含めたデータ分析プラットフォーム製品を提供する側の立場にある会社ですので、当然社内でも自社製品をユーザーという立場でフルに活用しています。例えば社内の営業活動データはSalesforce上で管理されていますが、データは抽出されて「Sales 360」というQlikView/Qlik Senseの分析アプリで一元的に管理され、そこでパイプラインの健全性、案件ステージ滞留率、今期の成約・着地予想、ディスカウント分析などを一目で確認することが出来ます。 (以下、デモデータを利用したSales 360アプリ)

Sales360 app with sample data

また、マーケット部門も同様にマーケティング分析アプリでリード獲得や案件創出についての分析を行ったり、技術部ではOutlookに入力された日々の活動データは全て活動分析アプリに纏められて、どのような活動・案件に何%の時間を費やしたかなどどが全て可視化されています。そしてQlik社員は「唯一の真実(Single version of truth)」としてこれらのデータを扱っており、必要に応じてセルフサービスでチャートなどを追加しながら同じデータを見て日々のビジネス活動においてコミュニケーションを行います。

そういった形でガバナンスが担保されたデータを元に分析を行うことがQlik社内では行われていますが、これを例えば各営業担当がバラバラに各々のテリトリについてデータを使って分析を行い、活動のプランや報告を行うとしたらどうなると想像されるでしょうか?以下の様な問題が起きると考えられます:

  • データの一貫性・整合性の欠如 – 計算方法や扱うデータが営業担当毎に異なる。また、マネージャが全営業の報告の取り纏めたり比較を行おうとすると2次加工の手間が発生する
  • 冗長作業による非効率化 – 同一ソースのデータを扱うにも関わらず、データ抽出・準備などの手間のかかる作業を複数の営業担当が重複して行い、組織全体の観点から非効率となる
  • 成果物品質の個人スキルへの依存 – 営業担当によってはデータ構造の理解やデータ準備などの作業が難しく、成果物の品質が個人のスキルに依存する

このように、各個人レベルでのデータ活用・分析に焦点を置いてツールを導入しても、利用について各人の裁量やスキルに任してしまうと組織全体としては非効率でかつデータの一貫性欠如や不整合を伴い、ビジネスに悪影響を及ぼす可能性があります。このようなことから、セルフサービスBIを展開して組織としてデータに基づいた判断を行うといったデータドリブンな企業文化を支えていくためには、併せてガバナンスに注視することが重要となるということになります。

ガバナンスが欠如したセルフサービスBI=セルフサービスBIカオス

Excelは非常に便利なツールですが、社員によってそれぞれ個別にファイルが管理されるため、データの一貫性欠如や適切なセキュリティの不備などの課題がたびたび指摘され、そういった状況は「Excelカオス(無秩序状態)」と呼ばれることがあります。もし、先ほどの例と同様に、Excelの延長性上でセルフサービスBIツールを利用するといったアプローチを取ったとすると、個人のレベルでは分析の幅は広がるかもしれませんが、組織全体で見たときにはこの「Excelカオス」が「セルフサービスBIカオス」に置き換わるだけの結果となり、以下のイメージの様に一貫性が欠如したバラバラに管理されたデータを元に各ユーザーが分析を行う状態に陥ってしまいます。

bi_without_governance

また、データの活用において、業務ユーザーがDWHや業務システムから直接抽出したデータを理解して出来るのは一部のユーザーに限られますので、活用範囲も限られてしまうといった課題も生じます。

ガバナンスが確保されたセルフサービスBIのモデル

では、このような状況を防ぐためにはどのようなアプローチが有効と考えられるでしょうか?ここで必要となってくるのがガバナンスの考え方です。

bi_without_governance

上記の図は、セルフサービスBIのプラットフォーム上に共有データモデルを含む分析アプリが作成されて公開されているイメージとなります。これはデータモデルを作成する技術スキルとデータに対する知見を持ったユーザーにより事前に作成されてプラットフォーム上で公開されたものとなります。そして、その他のユーザーは公開された共有データモデルを利用して自分に必要でチャートを作成して分析することでセルフサービスの分析を行うことができます。これにより:

  • 共有データセットを使うことによりデータの一貫性・整合性を確保できる
  • 複数ユーザーによる冗長なデータ準備作業を省き、組織全体の作業効率を向上させることができる
  • 多様なスキルレベルのユーザーに対しての展開を見込むことができ、また成果物の品質を保つことができる

といったメリットを確保することができます。

また併せて、軸、計算式、チャート部品といった再利用が可能な部品をあらかじめ用意してそれらを共有ライブラリとして公開することにより、利用される部品の共通化などを図ることも出来ます。プラットフォーム上でコラボレーションについては今後のエントリでもう少し掘り下げていきたいと思いますが、ユーザーは自分が追加したチャートやデータ・ストーリーテリングを他のユーザーと共有することもできます。

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またそういった仕組みを支える基盤に対するシステム管理の観点では、これらの資産をプラットフォーム上で一元的に適切なセキュリティ設定で管理し、また利用ユーザーの増加に対応するためのパフォーマンスや拡張性も確保することがセルフサービスBIのプラットフォームにおいては重要となります。

プロセスや仕組みでのガバナンス担保も必要

ガバナンスはツールの機能だけで完結できるものではなく、プロセスや仕組みの中でもガバナンスを確保していくことが求められます。前回の「セルフサービスBI」成功の肝となる「データ準備」と「複数データソースの統合」のエントリで「ビジネス・アナリスト」と「データ・アーキテクト」の役割についてお話させて頂きましたが、そういった役割分担を境界線として上手くプロセスの中で扱い、作業を効率化するとともにスキルが不足するユーザーの利用推進をサポートするといったアプローチは有効的と考えられます。事前に整備されたデータを利用してチャートなどのビジュアライゼーションを作成することはビジネス・アナリストでも行うことができます。しかし、システムからデータを抽出して適切なデータ準備を施し、それを利用可能なレベルにするにはより高度な技術を必要としたり手間が発生する場合が多いですので、その作業はデータ・アーキテクト分担してが行う形が望ましいケースが多く見られます。

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全ての分析作業を一から十まで一人のユーザーで行おうとすることは組織のプロセス上効率的ではない場合がありますので、データ・アーキテクトが承認されたデータセットが含まれるアプリを用意し、それを使ってビジネス・アナリストがチャートを使って分析を行うといった役割分担はガバナンスの最適化の観点から望ましく、ユーザー利用者のすそ野を広げることにも繋がります。

またその他に、作成したアプリを無条件で他のユーザーに公開することを許してしまうと、他のユーザーに利用されないアプリが多量に公開されてしまったり、システムに悪影響を及ぼすような質の低い設計のアプリが公開されてしまったりするケースが考えられます。セルフサービスということで、無秩序にユーザーが好き勝手にすることを許してしまうと、プラットフォーム全体のガバナンスに対して悪影響を及ぼすこととなってしまうということです。

Qlik社がお客様に対してご推奨していて、実際にお客様で行なわれている取り組みの一つとしては、アプリケーションの公開プロセスに「レビュー(承認)」のステップを取り入れるというものです。セルフサービスBIを取り巻くコミュニティを形成し、その中で有識者が参加してアプリのビジネス的な効果やデザインのレビューを行うという形がなされると、公開されるアプリの質が上がり、かつ有用なアプリがコミュニティ上でも共有されるという流れを推進していくことができます。

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こういったプロセスの下で実際にアプリを作成されている方に直接お話しをお聞きすると、「自分でアプリを作成して公開し、それが他の社員に利用されるのが嬉しい」とおっしゃる方もいらっしゃいます。コミュニティに対して貢献する意欲、データ活用により社内をより良い方向に変えていこうとする変革に向けた意欲を、コミュニティ拡大やデータドリブンな企業文化の醸成に向けた推進力に上手く繋げてていくことは非常に有効と考えられます。

以上、本稿ではセルフサービスBIのガバナンスのあり方についてご説明させて頂きました。その中でセルフサービスBIのプラットフォーム上でのデータモデルやライブラリの共有や活用について触れましたが、次回はそれに関連してユーザー間のコラボレーションに焦点を置いてお話をさせて頂きたいと思います。