はじめに

前回のデータドリブンな意思決定を両輪として支える「セルフサービスBI」と「ガバナンス」ではセルフサービスBIのプラットフォームにおけるガバナンスについてご説明しました。当エントリでは、そのプラットフォーム上におけるユーザーのコラボレーションはどうあるべきか?といったトピックについてお話させて頂きたいと思います。

アイデア、作成、承認・公開、パーソナライズ、そして共有の流れ

「セルフサービスBI」の展開に当たって、ユーザーが自由にチャートやレポートを作成できるといった各個人レベルの活動のみに焦点をおくことは、必ずしも組織全体の効率性の向上には繋がらないということは前回のガバナンスのお話でもご説明させて頂きました。業務においてデータ分析で得られた情報や洞察の他ユーザーとの共有が求められますので、ユーザーによる利用やコラボレーションという観点からもこのことは必然的に当てはまるといえます。

では、セルフサービスBIのプラットフォームではどのようなコラボレーションが求められるのでしょうか?セルフサービスBI活用のあるべき姿の一つの形を考えてみた場合、以下のようなアイデア、作成、承認・公開、パーソナライズ、共有といった一連のサイクルから成り立つと考えられます。

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上記の図は以下のライフサイクルを表しています:

  • アイデア – 業務において問題意識や疑問、業務改善に向けたアイデアが生まれ、データ分析や可視化に対するニーズが生じます。
  • 作成 – そういったアイデアやニーズに基づいてユーザーは様々なデータを利用し、自分自身で分析アプリの作成やデータ分析を行います。
  • 承認・公開 – 完成した分析アプリの有用性が認められると、事前に定義された承認のプロセスを経て社内の他のユーザーに公開されます。
  • パーソナライズ – 他のユーザーは公開された分析アプリを活用して分析を行うとともに、必要に応じて自分の分析したい視点から新たなパーソナライズされたチャートを作成することも出来ます。また、自分のPC上に存在するExcelファイルなどの個人データを既存データモデルに追加し、新たなデータの切り口から分析を行うといったことも行えます。
  • 共有 – こうして作成されたチャートなどは、コラボレーションを行うために他のユーザーにも共有され、意思決定やアクションに活用されます。また、新たな分析の切り口のチャートも追加されていき、分析アプリ自身の有用性もより高まっていくこととなります。

こういった形で、セルフサービスBIを個人で自己完結する分析の行為としてではなく、アイデア~共有といったライフサイクルが求められるものとして捉えることが、組織的なセルフサービスBI展開の観点において重要になると考えます。

企業内のアプリストアとしての「セルフサービスBI」プラットフォーム

仕事やプライベートでiPhoneやAndroid等のスマートフォンをご利用されている方々も多いと思いますが、スマートフォン向けのストア上にニュース、健康、作業効率化といった多種多様なアプリが公開されており、これらを自分のニーズに応じてワンクリックで利用して我々自身の生活の質や効率の向上に役立てることができます。セルフサービスBIではアイデア~共有といったライフサイクルが求められることを照らし合わせて考えると、セルフサービスBIのプラットフォームの位置づけやあるべき姿というのは、まさに企業内における分析アプリのアプリストアのようなものであるべきと言えるのではないかと思います。

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実際にQlik社のお客様では数百を超える分析アプリが作成されて公開・共有され、ユーザーが柔軟性高くそれらを活用しているケースもあります。 セルフサービスBIのプラットフォーム上で、ユーザーは自分たちの役割や所属する部門でのニーズに応じて営業、マーケティング、人事、財務・経理、購買など各種データを扱う分析アプリケーションを作成し、必要な承認プロセスを得て公開することができる。そして、適切なデータガバナンスやセキュリティなどを適用することで一貫性や信頼性を確保し、他のユーザーはまさにアプリストアを利用するようにワンクリックでそれらを利用することができる。そういった形でセルフサービスBIが活用されるエコシステムの構築は、データドリブンな企業文化の醸成を強く支えると考えます。

チャートの拡張性と多様化による広がるコラボレーションの可能性

これまで典型的なBIシステムやデータの分析において、棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、散布図、ピボットテーブル、地図などのチャートが広く使われてきました。それに対して、セルフサービスBIにおけるコラボレーションでは製品で決められた枠内のチャートだけが利用できるだけではなく、必要に応じて新たな表現のチャート部品をより多様な選択肢から追加できるといった拡張性も提供されています。その意味では、利用できるチャート種類の選択肢においてもセルフサービス的な要素が提供されていると言えます。

昨今の汎用的なウェブ技術の発展やオープンソース(OSS)コミュニティの広がりに伴って、多様なチャートが再利用可能な部品として各国の開発者によって作成・公開されています。例えばD3.jsのサイトでは、JavaScript等を使って作成されたチャートのライブラリ群がオープンソースの形態で公開されています。 (以下、https://d3js.org/の画面イメージ)

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セルフサービスBIツールのQlik Senseでは汎用的なウェブ技術と親和性の高いアーキテクチャーが提供されており、先ほどご紹介したD3.jsのライブラリなどを拡張機能として取り込んで、チャート部品の一部として利用することができます。例えば、D3.jsを利用したサンキー・チャートの拡張機能が利用され、以下のような形でコールセンターでの対応履歴から顧客行動の流れを分析するパス分析を行ったり(以下、SenseSankeyを使ったTelco Churnのサンプルアプリのイメージ)、サプライチェーン管理(SCM)のトレーサビリティの可視化に活用されたりしています。

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また、SNSでの繋がりや人間関係を表すソーシャルグラフなどを表現するものとして、以下の様なネットワーク・チャート表現もQlik Senseの中で利用されているケースもあります。(Network Vis Chartを使ったサンプルアプリのイメージ)

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オープンソースコミュニティとより深い相互発展関係を築く取り組みとして、Qlik社はQlik Branchと呼ばれるサイトを運用しており、そこでこれらのサンキー・チャートやネットワーク・チャートを含む数百にわたるチャート等の部品がオープンソースとして各国の開発者により公開・共有されています。セルフサービスBIでのコラボレーションではこういったオープンソースコミュニティの推進力や、そこに伴うチャート表現の多様化といった要素の活用により、コラボレーションのあり方の可能性を広げることもできると考えます。

アプリやチャートを作成するだけではなく、そこから得られるストーリーを共有

分析を通じてデータはチャートとして表現されることにとどまるべきものではなく、アクションや意思決定に繋げるためには、そこから読み取れる「データのストーリー」を他のユーザーと共有して理解を得たり説得するといったこともセルフサービスBIでは求められます。つまり、セルフサービスでユーザーがより自由かつ柔軟にデータ分析を行えるとともに、ユーザー間の共有やコラボレーションを促進し、そこから何らかのアクションや価値が生み出すことが重要になるということです。この点において、データのビジュアライズ~アクションの間の橋渡しの役割を果たすのが、データに裏付けられた洞察や知識に意味を与えてストーリーとして伝える「データ・ストーリーテリング」の役割となります。

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2015年~2016年にかけて筑筑波大学 サービス工学ビッグデータCoE様、ウエルシア薬局株式会社様、有限責任監査法人トーマツ Deloitte Analytics様、Qlik社の合同で、実務家としてのデータ・サイエンティスト」の育成に貢献することを目的として「アプリチャレンジ」の企画を実施させて頂きました。これは、筑波大学様で行われる実習講義において約40名の生徒が3名ずつのチームに分かれてウエルシア薬局の各店舗を担当し、店舗への実地調査や、セルフサービスBIツールのQlik Senseを使った実際のPOSデータの分析を通じて、売上拡大などの業務改善策を立案してプレゼンテーションを競うものになります。(以下、プレスリリースより)

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Qlik Senseでは「データ・ストーリーテリング」の機能が提供されており、チャートのスナップショットイメージを張り付けたプレゼンテーションを作成して、データ分析から得られた洞察や知見などをストーリーとして纏めることができます。この講義では、市場調査や実際の店舗訪問等を通じて例えば「ベビー用品の品ぞろえ強化」といったビジネスチャンスの仮説を立て、その仮説を裏付けていくために、実際のPOSデータを使って他店舗との比較、併売状況などのチャートを作成して分析を行いました。そしてを具体的な施策の提案を盛り込んだ「データ・ストーリーテリング」として取り纏めてそれぞれのチームがプレゼンテーションを行い、実務に関わる評価者の方々に高いご評価を頂くことが出来ました。このように、セルフサービスBIの活用においてはレポート作成やチャートでの分析にとどまらず、それらをアクションや価値創出に繋げるための仕組みとしての「データ・ストーリーテリング」を活用していくこともより有効であると考えます。

マルチデバイスを通じたコラボレーション

タブレットやモバイル端末が業務で利用されるシーンが増えてきており、チャートやストーリーが共有されるのは必ずしもPCだけではなく、これらのデバイスでの共有も想定することがますます重要となってきています。昨今のウェブ技術ではマルチデバイスに対応するためにレスポンシブデザインが採用されていますが、セルフサービスBIツールにおいてもこのレスポンシブデザインの採用がトレンドとなっており、以下の様な形で一度チャートやストーリーを作成するとタブレットやモバイル端末で見る時にはデバイスサイズに合わせて最適な表示を自動的に行ったり、それらのデバイスでチャートを作成したりすることが出来るようになっています。

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また、昨今ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などといった技術を活用したヘッドマウント・ディスプレイなどのウェアラブル・デバイスやジェスチャーによる操作など、より多様化したインターフェースのビジネス現場での利用が徐々に模索され始めています。実際に数年前のQlik社のグローバル・カンファレンスにおいて、未来のオフィスをイメージしたジェスチャーを使ったQlik Senseのチャート操作のコンセプト・デモが披露されていました。 (以下、Qlik Blogの「What Is The Future Of The Office?」より)

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このような形で将来のウェアラブルデバイスの発展を見据えた製品開発の取り組みもなされています。ジェスチャーを使った操作がデータ活用の現場で一般化するのはまだ少し先かもしれませんが、インターフェースの種類に依存しない形でセルフサービスBIが活用されることを目指していく取り組みは今後も継続的になされていくと考えます。

以上、セルフサービスBIのコラボレーションをキーワードとして、コラボレーションのあり方、そこで利用されるチャート表現の多様化やデータ・ストーリーテリングの有効性、そしてマルチデバイスでのコラボレーションについてお話してきました。